SMWSコード28.51(タイトル:素晴らしく生き生きとしている)
2021.07.29
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ウイスキー業界30年の専門家のテイスティングプレビューをご紹介します。
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目次
1. SMWSコード:28.51(タイトル:素晴らしく生き生きとしている)
トップノートはスイカやオゾンの澄みきったクリーンな青い空気感を感じる。
青い空気感は「刈り取られた草」の表現もあるようにヘキサナールなどのグリーンなアルデヒドが思い浮かぶ。と思いきや翻って印象深い香りが突然現れる。
オフィシャルノートに「甘いブランデーとリコリスのとてもクラシカルですごい香りで始まる」とあるように。
この香りは何者か!
一つ目はサクランボや梅の強烈な香りベンツアルデヒドのように思う。
強いフルーティーなエステル香にガードされながら。
二つ目は軽やかだが甘いフルーツ感が印象的。
これは筆者の経験的にココナッツやピーチの香りを有するノナラクトンではないかと思う。
三つ目はバーボン樽の樽感と僅かに感じるピートの苦味。
これら3つが上記の表現の正体ではないかと思う。
リコリスとは甘草のことで、甘さと苦さを持つハーブである。
苦さの部分はベンツアルデヒドと樽フェノールとピートが合わさると似た感じになるかとも思う。
ぜひ、オフィシャルノートも合わせてご覧ください。
2. 香りの構成について
さて、なぜこのような香りの構成になるか推理する。
フルーティーなエステル香がしっかりして、異臭がないのはクリーンな醗酵ができているからである。
しかし、上記のような香気特徴を有するためには、酵母意外の微生物の活躍がありそうだ。
ヘキサナール、ベンツアルデヒド、ノナラクトン全て低pHでよく生成することから、生酸菌介在の痕跡がある。
ここでノナラクトンについて解説する。
ノナというのは単素数9個のラクトンである。
著者らは以前スコッチウイスキーの香味に影響を与える重要な成分として、単素数10個のデカラクトンと12個のドデカラクトンの重要性を発表してきた。
その2つのラクトンは特定の木桶で醗酵させた蒸溜所のみ持ち合わせる成分であった。
この香気生成の興味深いメカニズムについては概論で述べてゆくが。
この2つのラクトン以外に、実は広くどのモルトにも多かれ少なかれ存在するノナラクトンというのがある。
このラクトンは香気の強さにおいては前2者のラクトンには敵わないが、香気の質はココナッツやピーチといった同等の性質がある。
但し軽い傾向がある。
ウイスキー醪の醗酵中に酢酸菌や乳酸菌などの酸生成で低pHになった場合原料麦芽由来のリノール酸から分解して簡単に生成することが分かっている。
醗酵タンクが甘いピーチの香りで包まれるのである。
しかし、パワーが弱いためによっぽど高生成しない限り蒸留後の原酒の個性として頭角を表さないのである。
それに対して前2者のラクトンは僅かに生成するだけで圧倒的な個性を原酒に付与できるほどパワーが強いのである。
前2者のラクトンは原料麦芽由来のリノール酸ではなく、死滅した酵母の脂質からしか生成できないところが異なる。
つまりノナラクトン生成だけならば、醪の中で酵母が死滅したり熟成したりする必要がない。
ということは醪または酵母の熟成を伴う複雑な醗酵ではなく、乳酸菌こそ強く活躍するもののシンプルに短い醗酵期間で蒸溜するだけで良いのである。
しかしこのモルトが筆者の推察したようにノナラクトンが個性になっているとすれば、その含有量が随分多いのか、香気バランスの為せる技なのか興味深いところ。
以上。
ぜひこの機会に、28.51をお楽しみください。