SMWSコード108.34(タイトル: 夢のような夜の飲み物)
2021.08.25
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目次
1. SMWSコード108.34(タイトル: 夢のような夜の飲み物)
フルーティーでクリーン。
透明感あり、ややドライ、花の香あり。
14年の熟成を経ているが溌剌とした香味。
口に含むと後味にややナッツやクリスプ、ウエハースのような穀物香、最後にはピートのピンとした張りが残る。
アップルのようなカリッとドライなフルーティー感からやや酸と渋みのある梅の果実感を感じる。
溌剌としたフレッシュな香味はフルーティーなエステルとピート香から生まれるのではないだろうか。
モルトを加水するとやがて白濁する。
白濁の正体は脂肪酸エチルエステルと脂肪酸。
一般的には良好な醗酵をしたモルトは脂肪酸エチルエステルがリッチになる。
このモルトは雑味なく良好な発酵をしているのでフルーティー感はある。
しかしまったりした果実ではない。
アップルや梅のようなバラ科風のそれ。
花の香にもいろいろあるが、バラの香はウイスキー中ではβフェニルエチルアルコールが想起させる。
βフェニルエチルアルコールは酵母のフェニルアラニンというアミノ酸代謝から生まれる。
「華やか」という官能評価用語があるが、フルーティーと花様他の複合的要素で成り立つ表現と思われる。
どちらも上立つ香りだが、「フルーティー」は食らい付きたくなるウェットなタイプで、「花様」は惹かれるが食らいつきたくはないドライなタイプか(筆者の個人的見解)。
そういう分類でいうとバラ科のアップルとか梅はフルーティーでもあるが、華やかの印象もある。
これが「溌剌としたフレッシュ」の一要素とすれば、もう一つの要素として、このモルトはスコッチ特有のストイックなドライ感がある。
つまりそれはピートが醸し出しているということである。
フルーティー、華やかだけでは「溌剌としたフレッシュ感」は伴わない。
そこにピート香が僅かに参加することで生まれているのではと思う。
ぜひ、オフィシャルノートも合わせてご覧ください。
2. 香りの構成について
ウイスキーの香味は基本的に酸化し尽くした香味で構成される。
ここがワインやビールなど他の酒類と異なるところである。
蒸留工程や長い長い熟成工程があるのだから当然である。
ところがピート香はフェノール類である。
フェノールは還元性が強く、なかなか酸化されずに居残ることになる。
トップにくるピート香成分のクレゾールなど単純フェノールは特に若いのである。
老人の中で少数の若者が踏ん張っている風なのがスコッチの香味である。
かつてケルトの民は常若伝説(ティル・ナ・ノーグ)を信じた民族である。
その民族が生み出したスコッチはやはり常若の「命の水」の要素を持ち合わせているということなのだろうか。
ピートモルトは若返りの鍵か。
一方日本には竜宮城で若さを保つ浦島伝説がある。
不老不死は西方浄土の常世信仰とも重なる。
秦の始皇帝が紀元前200年頃 道教の方士 徐福に不老不死の霊薬を探すために東方海上にある蓬莱山(該当地は富士山はじめ諸説)に派遣した徐福伝説。
そんな話を読みながらスコッチを飲む。
ピートの効いたスコッチは正に現代の不老不死の霊薬なのかもしれない。
以上。